愚園路395号
多くの上海市民が住み慣れた古い住居から近郊の新しい高層マンションに移り住んでゆく昨今、いつか伝統的な里弄式住居を懐かしむ日がくるかもしれません。
伝統的な石庫門弄堂式住居もすでに風前の灯火となっていますが、質のよいものが文化遺産として保護の対象として遺されてゆくことになりました。
文化遺産の対象となっている典型的な石庫門弄堂式住居のひとつに1936年に建てられた湧泉坊があります。建てたのは華成烟草公司総経理陳楚湘、彼の会社である華成烟草公司は“金鼠”ブランド、“美麗”ブランドの煙草を全国規模で販売し、欧米企業の販売量をはるかに上回わるほどの人気を持つ公司でした。
“金鼠”の名前は公司が心機一転開業した年が1924年農暦鼠年だったのを記念してつけられました。その後登場した“美麗”は公司の前途を決定付ける煙草となりました。煙草の箱絵に著名な京劇役者呂美玉を使用したため裁判ざたとなり、さまざまなマスコミに採りあげられたおかげで、その知名度がいっきに全国区となったからです。
これは陳楚湘の商才がたけていたといえるエピソードのひとつです。
樹木に隠れるように建っている弄堂端の陳楚湘邸は人々から陳家花園と呼ばれ親しまれました。
湧泉坊の湧泉は静安寺の門前に湧いていた“天下第六泉”湧泉からつけられたと思われます。
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